地域的な包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership Agreement。以下、RCEP)はASEAN10か国と日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランドの計15か国によって2020年11月に署名されました。域内人口22.6億人、同GDP26兆ドルと、どちらでも世界経済の約3割を占める巨大な経済圏が誕生することになります。日本は21年4月に国会承認を終えており、RCEPは早ければ21年末にも発効する見通しです。
ASEAN(TPP不参加) | カンボジア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、タイ |
ASEAN(TPP参加) | ブルネイ、マレーシア、シンガポール、ベトナム |
非ASEAN(TPP参加) | 日本、豪州、ニュージーランド |
非ASEAN(TPP不参加) | 中国、韓国 |
2018年のTPP(環太平洋パートナーシップ)署名の際、日本国内でも相当の議論があったことは記憶に新しいですが、2020年11月のRCEP署名はコロナ報道にかき消され、日本国民の耳目を集めるまでには至らなかったのではないでしょうか。中国のASEANに対する影響力を牽制するためにも、日本にRCEPに参加しないという選択肢はなく、2012年12月のRCEP交渉の立ち上げ以前には、日本と近い価値観を持つインドや豪州、ニュージーランドを参加させるために動きました(交渉も最終盤の2019年11月にインドが離脱したのは誤算でした)。
RCEPが副次的にもたらす大きな影響は以下の2点だと考えます。
1)これまで2国間EPAが存在しなかった日中および日韓がRCEPでつながる。
2)台湾がTPPに続いてRCEPにも参加できない。
中国にとって譲れない「一つの中国」の原則に各国が「忖度」せざるを得ないので、台湾のTPP発足時の参加は叶いませんでした。RCEPにはその中国が参加しているので、当然ながら参加できません。
台湾が競争力を持ち日本への輸出の過半を占める、半導体を含むエレクトロニクス製品は、そもそも日本の輸入関税がゼロのものが多く、RCEP不参加の影響は大きくありません。「中国産の方が安いが、台・中ともにWTO加盟国のステータスで同じ関税率だったので、台湾が品質向上の努力をすればなんとか対日輸出競争力を維持できた品目」(主に農産物や食品)で、今後中国産の輸入関税が段階的に引き下げられ、台湾産物品の対日輸出競争力に大きなダメージを与えることが予想されます(台湾産が日本で大きなシェアを持つ冷凍枝豆が代表的。ブログ「台湾パイナップルと冷凍枝豆と輸入関税」で詳説しています)。
台湾とRCEP参加国の間で結ばれるEPAは以下の3つのみです。
1.中国・台湾海峡両岸経済枠組協定(ECFA) | 10/9発効 |
2.台湾・ニュージーランド経済協力協定 | 13/12発効 |
3.台湾・シンガポール経済パートナー協定 | 14/4発効 |
TPP発効前に米国が離脱して以来、日本はアジアの貿易秩序構築をめぐる難しい舵取りを迫られていますが、TPPにもRCEPにも入れない台湾が一部の輸出品目において「アジアの自由貿易の孤児」になりかねない宿命的苦境を、皆さんに知っていただきたいです。
参考記事:「米台、5年ぶり貿易協議再開 中国をけん制」日本経済新聞 2021年6月30日